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「人工肛門(ストーマ)」が必要になる病気・疾患はご存知ですか?医師が解説!

 公開日:2025/05/12
「人工肛門(ストーマ)」が必要になる病気・疾患はご存知ですか?医師が解説!

人工肛門(ストーマ)とは?Medical DOC監修医が人工肛門(ストーマ)の種類・必要になる病気・疾患・作る流れ・合併症・ケア方法・日常生活で注意するべきことなどを解説します。

齋藤 雄佑

監修医師
齋藤 雄佑(医師)

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日本大学医学部を卒業。消化器外科を専門とし、現在は消化器外科、消化器内科、産業医を中心に診療を行っている。現在は岩切病院、永仁会病院に勤務。
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

人工肛門(ストーマ)とは?

人工肛門(ストーマ)とは、病気や怪我などが原因となり手術によって腹部に作られる、便を体外へ排出するための開口部のことです。ストーマの主な目的は、直腸や肛門が適切に機能しない、または治療のためにバイパスする必要がある場合に、便を安全に体外へ排出することです。この手術では、小腸または大腸の一部を腹部の表面に引き出します。自然な肛門とは異なり、ストーマには括約筋がないため、便の排出を意図的にコントロールすることはできません。そのため、ストーマには、便を溜めるためのパウチと呼ばれる装具を装着して生活します。今回はストーマについて、その種類や原因、ストーマトラブルの対処法について徹底解説をしていきます。

人工肛門(ストーマ)の種類

一時的ストーマ

一時的ストーマは、病気や手術によって影響を受けた腸の一部を休ませ、治癒させるために、一時的に便の流れを別の経路に変える目的で外科的に作られます。これは、一時的なバイパスとして機能します。一時的ストーマが作られる一般的な医学的な理由としては、手術で繋ぎ合わせた腸の部分(吻合部)を保護し、漏れを防ぐこと、または腸閉塞を解消するために便の流れを閉塞部位から迂回させることなどです。一時的ストーマは、肛門に近い直腸がん、炎症性腸疾患、腸閉塞、またはその他の腸の手術後に、腸の回復を促すために作られることがあります。病状や手術の目的によって、結腸ストーマや小腸ストーマが選択されます。一時的ストーマを閉鎖するかどうかの判断は、手術部位の治癒状態や患者さんの健康状態に基づいて行われます。一般的には、手術後または炎症が治まった後、数週間から数ヶ月(通常は3〜12ヶ月)の期間を経て、ストーマ閉鎖の手術が行われます。

永久的ストーマ

永久的ストーマを造設する理由は大きく分けて2つあります。1つ目は直腸や肛門を完全に切除した場合で自然な排便経路を再建することができない場合。2つ目はお腹の中にがんがばらまかれた状態(腹膜播種)を起こしている場合に、緩和的治療として予防的に永久的ストーマを造設する場合です。永久的ストーマは、直腸がんの手術で肛門を温存できない場合、大腸と直腸を完全に切除する必要がある炎症性腸疾患の場合、または末期大腸がんの治療として造設されます。まれに、良性の病気であっても永久的ストーマが必要になることもあります。根治手術を行う場合の一時的ストーマと永久的ストーマの選択は、多くの場合、肛門機能を温存または再建できるかどうかにかかっています。肛門括約筋は便の失禁を防ぐ上で非常に重要な役割を果たしており、これらの筋肉を切除または機能不全にする必要がある場合は、永久的ストーマが選択されます。

人工肛門(ストーマ)が必要になる病気・疾患

直腸がん

直腸がんは、肛門に近い場所に発生したり、肛門にまで広がったりすると、肛門と周辺の筋肉を切除する必要があり、永久的な結腸人工肛門が必要になる場合があります。また、直腸の一部を切除する手術では、つなぎ合わせた部分(吻合部)を保護するために、一時的に人工肛門が作られることもあります。直腸がんの主な原因としては、遺伝的な要因、加齢、喫煙、過度のアルコール摂取、運動不足などが挙げられます。治療法は、がんの進行度や発生場所によって異なり、手術や化学療法、放射線療法、分子標的薬、免疫療法などが選択されます。排便習慣の変化、血便、腹痛、原因不明の体重減少、持続的な疲労感などの症状が現れた場合は、消化器外科または消化器内科を受診してください。

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)

炎症性腸疾患は消化管に慢性的な炎症が起こる病気です。炎症性腸疾患の原因は正確には不明ですが、遺伝的素因、免疫系の異常、環境要因などが複雑に関与していると考えられています。内科的治療で効果が得られない重症の場合には一時的か永久的小腸ストーマが必要となることがあります。持続的な血便を伴う下痢、腹痛、発熱、疲労感、体重減少、頻繁な排便などの症状が現れた場合は、消化器内科や消化器外科を受診しましょう。

下部消化管穿孔

下部消化管穿孔は小腸や大腸の壁に穴が開いた状態です。腸の内容物が腹腔内に漏れ出し、重篤な感染症を引き起こす可能性があります。穿孔の原因はがんなどの悪性疾患や、大腸に小さなポケット(憩室)に炎症が起こる憩室炎、炎症性腸疾患などの良性疾患、外傷などです。穿孔を修復するためには手術が必要であり、修復部位を保護し、治癒を促進するために一時的ストーマが作成されることがあります。広範囲の損傷の場合には、まれに永久的ストーマが必要となることがあります。症状は突然の激しい腹痛、発熱、悪寒、吐き気、嘔吐、ショック症状(頻脈、低血圧など)などさまざまです。このような症状が出現した場合には直ちに一般外科、消化器科、救急科を受診してください。歩行が難しいような状況であれば、躊躇なく救急車を呼んでください。

鎖肛

鎖肛とは生まれつき肛門と直腸が正常に形成されない先天性疾患です。鎖肛の赤ちゃんは生後すぐに一時的コロストミーが必要となることが多く、その後、肛門を形成する手術が行われます。高位(直腸の末端から肛門までの距離が長い場合)の鎖肛では、永久的ストーマが必要となる場合もあります。鎖肛の原因は妊娠初期の直腸、肛門、生殖器が形成される過程で何らかの異常が生じることが原因ですが、正確な原因は不明で、遺伝性もありません。治療は肛門を正常な位置に作成するための外科手術が行われます。多くの場合、初期に一時的ストーマを作成し、その後、根治手術を行い、必要に応じてストーマを閉鎖するという段階的な治療が行われます。

人工肛門を作る流れ

①手術前のストーマサイトマーキング

ストーマを腹部のどの位置に作成するかは、手術の成否と術後の患者さんの生活の質に大きく影響するため、非常に重要な決定です。可能な限り手術前に、ストーマの位置を慎重に計画します。ストーマの位置を決めることはストーマサイトマーキングと呼ばれ、手術を行う外科医、ストーマケアを専門とする看護師、そして患者さん自身が協力して行うことが必要です。最適な位置は、作成されるストーマの種類、患者さんの体型、腹部のしわやたるみ、そして患者さん自身がストーマを視認できるかどうかなどを考慮して決定されます。これによりストーマ装具がしっかりと装着でき、合併症のリスクを減らすことができます。

②手術の流れ

ストーマを造設する手術は、通常、全身麻酔下で行われます。これにより、患者さんは手術中に完全に眠り、痛みを感じることはありません。外科医は、術前にマーキングされた部位の腹部に外科的な切開を加え、大腸または小腸を腹壁を通して引き出します。次に、引き出された腸の端を内側に反転させ、皮膚に縫い付けてストーマの開口部を作成します。ストーマを作成するための外科的な手法は、単孔式ストーマ(腸の一端を腹部の表面に出す)と双孔式ストーマの2通りです。どちらの手法を選択するかは、ストーマが一時的なものか永久的なものか、そして手術の具体的な状況によって異なります。永久的ストーマの場合、通常、S状結腸が使用され、左下腹部から体外に出されることが多いです。一時的回腸ストーマの場合、双孔式回腸ストーマが一般的に使用され、右腹部から体外に出されます。

③手術後の管理

手術直後は、ストーマが浮腫んでおり、内出血のために青紫色に見えることがあります。これは正常な反応で通常数週間かけて徐々にきれいなピンク色に戻ります。術後の初期段階では、ストーマケア看護師や医師がストーマの色、サイズ、および排泄物の量と種類を注意深く観察し、適切な血流と正常にストーマが機能しているかを確認します。患者さんはストーマのケア方法について指導を受けます。ストーマからの最初の排泄物は、ストーマの種類によって異なり、回腸ストーマでは通常液体状で、大腸ストーマの排泄物は液体状から固形に近いものまでさまざまです。退院後も、外科医とストーマケア看護師により、定期的に経過をみてもらう必要があります。

人工肛門(ストーマ)装着後に注意したい合併症

ストーマ周囲皮膚炎

ストーマ周囲皮膚炎とは、ストーマ周辺の皮膚の炎症のことです。一般的な合併症であり、発赤、刺激、かゆみ、痛み、そしてより重症の場合には皮膚のびらんや潰瘍などが現れます。便や尿の漏れによる皮膚への刺激、ストーマ装具や接着剤に対するアレルギー反応、装具の摩擦やずれによる機械的刺激、細菌や真菌による感染、装具の不適切なフィットや装着などが原因となる事が多いです。適切な装具の装着、皮膚保護剤(ワイプ、スプレー、パウダーなど)の使用、漏れを速やかに対処すること、良好な衛生状態の維持、感染が疑われる場合は適切な外用薬による治療が行われます。家庭でのケアで改善しない持続的な発赤、痛み、出血、皮膚のびらん、感染の兆候(発赤、腫れ、熱感、膿)などがある場合は、消化器外科外来を受診しましょう。

傍ストーマヘルニア

傍ストーマヘルニアとは、ストーマの部位の腹壁の筋肉が弱くなり、腸が突出してくる状態です。ストーマ周囲に膨らみや突出が見られ、不快感や痛みを感じることがあり、装具の装着が困難になることがあります。発症の原因は腹圧の上昇(咳、排便時のいきみ、重い物を持ち上げるなど)、腹筋の弱体化(加齢、肥満、以前の手術など)、ストーマ開口部の大きさが大きすぎるなどさまざまです。経過観察をしつつ、ヘルニアバンドの使用も検討します。ヘルニア嵌頓といってヘルニアの中で腸管が締め付けられる状態など重症の場合は緊急手術を行う場合もあります。また、ヘルニアの症状が強い場合は、予定手術による修復が必要です。ヘルニアの大きさや痛みが急に増した場合、ヘルニアが元に戻らない場合、腸閉塞の兆候(吐き気、嘔吐、腹痛、ガスや便が出ない)がある場合、またはストーマの機能に変化があった場合は、早急に医療機関を受診してください。

ストーマ脱出

ストーマ脱出とは、腸がストーマの開口部から異常に長く突出した状態のことです。発症の原因は腹圧の上昇、ストーマ開口部が大きすぎる、手術時の腸管の固定が不十分、または腸管が長すぎるなどが原因です。軽度の脱出は、臥位になることで自然に戻ることがあります。支持性装具が役立つこともあります。重度の場合や、頻繁に脱出する場合、または閉塞や絞扼(血流遮断)などの合併症を引き起こす場合は、ストーマの再造設手術が必要です。脱出した腸が元に戻らない場合、痛み、腫れ、脱出した腸の変色、閉塞の兆候、または著しい出血がある場合は、医療機関を受診しましょう。

人工肛門(ストーマ)のケア方法

皮膚を清潔に保つ方法

ストーマ周囲の皮膚は、装具交換のたびに温水と低刺激性の石鹸で優しく洗浄します。刺激の強い石鹸、香料やオイルを含む洗浄剤、アルコール含有ワイプの使用は避けるようにしましょう。洗浄後は、温水で十分に洗い流し、新しい装具を装着する前に、優しく完全に乾かします。装具交換のたびに、ストーマ周囲の皮膚に発赤、刺激、びらんなどの兆候がないか確認しましょう。皮膚を刺激や水分から保護するために、バリアワイプ、スプレー、パウダーなどの皮膚保護剤の使用を検討してみてください。良好な接着が得られれば、皮膚トラブルを防ぐことができます。

臭いや汚れをキレイに落とす方法

臭いを効果的に管理するには、ストーマパウチの排液量が3分の1から半分程度の量になったら中身を捨てるようにすることがおすすめです。これにより、パウチが重くなりすぎて漏れたり、外れたりするのを防ぎ、臭いの蓄積も最小限に抑えられます。臭いを中和するために、ストーマパウチ専用に設計された消臭スプレー、ドロップ、または潤滑剤などの消臭剤などもありますので、使用を検討しましょう。排液を捨てた後は、臭いが漏れないように、パウチが適切に閉じられているか確認する必要があります。ストーマパウチには、パウチ内で発生する臭いを吸収して中和する活性炭フィルターが内蔵されているものもあります。

ストーマ装具の適切な交換方法

ほとんどのストーマ装具は3〜7日間装着できますが、漏れや皮膚の炎症がある場合は、より頻繁に交換する必要があります。ストーマの活動が少ない時間帯、例えば朝食前や水分摂取前などに装具を交換するのが最適です。古い装具を剥がすときは、皮膚を傷つけないように優しく行うようにしましょう。皮膚保護剤が剥がれにくい場合は、粘着剥離剤を使うと剥がしやすくなります。新しい装具を装着する前に、ストーマ周囲の皮膚を完全に清掃し、乾燥させましょう。新しい皮膚保護剤の開口部は、ストーマにぴったりとフィットするように、ストーマに触れないように適切なサイズにカットします。新しい装具を装着し、漏れを防ぐためにしっかりと密着させてください。皮膚保護剤の周囲を優しく押して、皮膚に密着させて装着完了です。

人工肛門(ストーマ)をつけた後に日常生活で注意するべきこと

食事

一般的に、厳格な食事制限は必要ありません。バランスの取れた食事を規則正しく摂ることが大切です。食物繊維の多い食品は詰まりを引き起こす可能性があるため、よく噛んで食べるようにしましょう。特に回腸ストーマの場合、水分の吸収が不十分になることがあり、体の水分が失われやすいため、水分を十分に摂取するように心がけましょう。新しい食品を食べる時はストーマの排液がどのように変化するかを確認する癖をつけましょう。ニンニク、ネギ、ニラ、一部のスパイスなどの特定の食品は臭いを強くする可能性があります。逆に、ヨーグルト、チーズ、納豆、味噌などの食品は、臭いを軽減するのに役立つことがあります。

服装

一般的に、手術前と同じ服を着ることができます。ストーマ部分を締め付けすぎない服装を避けるようにしましょう。ベルトがストーマに直接当たる場合は、サスペンダーの使用を検討しましょう。ストーマ専用の下着やサポートウェアは、快適さと安全性を高めることができます。

社会生活

ストーマがあることで社会活動への参加にハードルを感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。まずは信頼できる友人や家族にストーマについて共有してみることから始めてみましょう。実務面・感情面のサポートが受けられると不測の事態にも心強いです。オストメイトマークまた経験の共有のために、ストーマサポートグループなどのリソースを利用してください。多くの公共トイレには、オストメイト対応の設備があります。よく利用する場所にオストメイト対応のマークがあるか確認してみましょう。

運動

全体的な健康とウェルビーイングのために、定期的な運動を行いましょう。軽い活動から始め、徐々に強度を上げていきます。ストーマを直接傷つけたり、腹部に過度の負担をかけたりする可能性のあるコンタクトスポーツや重い物の持ち上げは、避けたほうがよいでしょう。運動前にパウチを空にして、運動中は水分補給を心がけましょう。適切な装具の調整により、水泳も可能です。

「人工肛門(ストーマ)」についてよくある質問

ここまで人工肛門(ストーマ)について紹介しました。ここでは「人工肛門(ストーマ)」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

人工肛門(ストーマ)装着後は一日に何回程度、トイレに行くことになりますか?

齋藤 雄佑齋藤 雄佑 医師

人工肛門を装着した後の排便回数は、ストーマの種類や個人の食事・生活習慣によって異なります。一般的には、回腸ストーマ(小腸に作られるストーマ)の場合は1日4〜6回程度、大腸ストーマ(結腸に作られるストーマ)の場合は1日1〜3回程度が目安です。また、排便のコントロールが難しい場合もあるため、パウチ(装具)の管理や適切なケアが大切です。

編集部まとめ 人工肛門を正しく理解し、安心して日常生活を送ろう!

人工肛門(ストーマ)は、消化管の一部を体外に開口させ、排泄物を体外に導く医療処置です。ストーマの種類や作られた位置によって、排泄の状態や生活の工夫は異なります。ストーマケアの知識やサポート体制が充実してきており、安心して日常生活を送ることができます。必要に応じて医療機関やストーマ外来に相談し、適切なアドバイスや指導を受けましょう。

「人工肛門(ストーマ)」と関連する病気

「人工肛門(ストーマ)」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

消化器科の病気

これらの病気により、ストーマの造設が必要となる場合があります。詳しくは主治医に確認をしましょう。

「人工肛門(ストーマ)」と関連する症状

「人工肛門(ストーマ)」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 腹部の張り
  • 下痢
  • 皮膚のかぶれ
  • ストーマ脱出

これらの症状に気づいたら、早めに医療機関での確認やストーマケア指導を受けることが重要です。

この記事の監修医師

OSZAR »