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「肝臓がんの抗がん剤治療の主な副作用」はご存知ですか?【医師監修】

 公開日:2025/05/21
「肝臓がんの抗がん剤治療の主な副作用」はご存知ですか?【医師監修】

肝臓がんと診断されると、基本的に手術によって根治を目指します。しかし手術ができない場合もあり、そのようなときの手段の一つが抗がん剤による治療です。

抗がん剤にはさまざまな種類があり、その中から肝臓がんに適した薬剤が選択されます。ところが抗がん剤で問題になるのが副作用の存在です。

この記事では肝臓がん治療に使われる抗がん剤の種類や、それによって生じる副作用を解説します。対応方法も紹介するので参考にしてください。

山本 康博

監修医師
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)

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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい院長
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医

肝臓がんとは

肝臓がんは肝臓にできるがんの総称です。肝臓を構成する肝細胞ががん化すれば肝細胞がんで、肝臓内部にある胆管ががん化したものが肝内胆管がんになります。
肝臓がんの90%以上が肝細胞がんのため、一般的に肝臓がんといえば肝細胞がんを指します。
肝臓がんの誘因として挙げられるのは、肝炎ウィルスの感染やアルコール性および非アルコール性の肝疾患による炎症・肝硬変などです。

肝臓がんの抗がん剤治療で使用する薬の種類

肝臓がんの治療では、がんの病巣が多数の場合や他臓器への転移がある場合など、進行して切除や焼灼・肝動脈塞栓術ができない場合に抗がん剤による薬物治療が行われます。
薬物療法に使われる抗がん剤は、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が主体です。
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質や遺伝子を選択的に攻撃します。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞に対して出す、がん細胞への攻撃を止める指令を阻害する薬です。複合免疫療法の適応がある患者さんには、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた治療か、免疫チェックポイント阻害薬同士を組み合わせた治療が行われます。
また、複合免疫療法ができない患者さんに行われるのは、分子標的薬のみによる治療です。

肝臓がんの抗がん剤治療の主な副作用

肝臓がんに対して行われる抗がん剤治療では、それぞれの薬剤に特徴的な副作用が見られます。主な症状は以下のとおりです。

  • 食欲不振
  • 倦怠感
  • 下痢
  • 手足症候群
  • 高血圧
  • 尿蛋白
  • 甲状腺機能異常
  • 間質性肺炎

それぞれの症状に関して、個別に解説します。

食欲不振

食欲不振は抗がん剤の副作用としてよく見られる症状です。
例えば免疫チェックポイント阻害薬のアテゾリズマブと、分子標的薬のベバシズマブの組み合わせで薬物治療を行った場合、翌日から数週間の間で食欲不振の症状が見られます。ただし、症状の現れ方には個人差があります。
食欲不振は抗がん剤による脳の中枢神経や腸の神経への刺激によってもたらされる症状です。体力を落とさないために、やわらかいもの・さっぱりしたもの・好みの味付けのものを選んで食べる必要があります。また、少量を回数を多くして食べるなどの工夫も必要でしょう。

倦怠感

倦怠感は肝臓がんに限らず、抗がん剤治療ではよく見られる副作用です。ただ、抗がん剤でなぜ倦怠感が出るのか、そのメカニズムはよくわかっていません。多くの方で抗がん剤使用後から現れ、2~3日後に強くなった後はゆっくり回復するパターンです。
対応は、まず症状が現れる状況を把握します。そして日常生活のなかで活動の優先順位を決め、エネルギーの配分を考えましょう。

下痢

下痢の副作用では抗がん剤の治療直後におこる早期性下痢と、数日~10日程度の間におこる遅発性下痢があります。抗がん剤の影響で腸の自律神経が活発化しておこるのが早期性下痢です。
一方の遅発性下痢は、抗がん剤や代謝物の作用で腸の神経に障害が出ておこります。対応は一般的な下痢と同様です。消化のよい食物を選び、脂肪や刺激物は避けます。

手足症候群

手足症候群は分子標的薬に特徴的な副作用です。しびれや痛みなどの感覚症状や、皮膚の角質化・水ぶくれ・爪の変形がおこります。悪化すると治りにくいので、症状が出たら早めに医師に相談してください。
また、事前の予防も大切です。皮膚への刺激や圧迫・熱が悪影響を及ぼすので、厚手の靴下や靴の中敷きで刺激を避け、炊事や入浴時に熱い湯に手足をさらさないなどの配慮をしてください。

高血圧

高血圧も分子標的薬に特徴的な副作用です。内服薬のソラフェニブでは、治療開始から6週目頃までに高血圧症状が現れることがあります。症状が出現した場合でも降圧剤によってコントロールできるので、抗がん剤の使用は継続が可能です。
治療中は自分で1日2回血圧を測り、経過を観察します。収縮期血圧(上の血圧)が150mmHg以上で拡張期血圧(下の血圧)が100mmHg以上の状態が7日続いた場合は主治医に連絡してください。

尿蛋白

尿蛋白もベバシズマブなどの分子標的薬で現れやすい副作用の一つです。尿に蛋白が出ただけでは無症状の場合がほとんどですが、重症化するとむくみが現れ、肺や腹腔に水分が溜まるネフローゼ症候群をおこす場合があります。
そうなると抗がん剤は中止になるので、治療中は定期的な尿検査が必要です。尿量や回数の変化に注意し、何かあれば主治医に報告し指示をうけます。

甲状腺機能異常

甲状腺の機能異常は、免疫チェックポイント阻害薬に見られる副作用です。免疫機能を高める作用によって過度に活性が上がったために、甲状腺機能に異常が現れます。症状は疲れやすい・だるい・体重の増減などです。
また、分子標的薬によっても甲状腺機能低下症が高率で現れたとの報告も見られます。

間質性肺炎

間質性肺炎は、分子標的薬や免疫賦活薬など各種の抗がん剤で見られる副作用です。薬剤の影響で肺胞隔壁周辺に炎症がおこり、肺胞でのガス交換に障害が発生します。
症状は空咳・発熱・呼吸困難などで、重症になると死亡の可能性があります。重大な副作用として薬剤の添付文書に記載され、発症した場合した場合は医師による対応が必須です。

抗がん剤治療で副作用がでたときの対策

肝臓がんで抗がん剤による治療を行えば、高い頻度で副作用が見られます。症状が重い場合は投与中止の可能性もあるので、そうならないように用意された対策を紹介します。

支持療法

支持療法は副作用対策の一つです。がんそのものによるつらい症状や薬剤の影響による症状を改善して、精神的・身体的に支援します。
がんの薬物療法では、抗がん剤を使う前に抗アレルギー剤や制吐剤を処方して過敏症や吐き気・食欲不振を抑制します。ほかにも便秘薬や下痢止めなどさまざまな薬剤が用意されているので、我慢せずに医師や看護師に相談してください。

薬の種類を変更

抗がん剤で治療中に薬の効果がなくなったと判断された場合、薬の種類の変更が検討されます。作用の機序が違う薬に変更すれば、また効果が期待できる場合です。効果がなくなる時期は患者さんによって違い、一定ではありません。
一方重度の副作用で治療に堪えられない場合は休薬や減量が検討され、状態が好転すればもとに戻します。

肝臓がんの抗がん剤治療の副作用についてよくある質問

ここまで肝臓がんの抗がん剤の種類・副作用などを紹介しました。ここでは「肝臓がんの抗がん剤治療の副作用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

副作用の出方は人によって違いますか?

山本 康博医師山本 康博(医師)

副作用には個人差があります。薬剤への感度や、吸収・分解に関係する臓器の機能が個人により違うので、副作用の出方はまちまちなのが一般的です。例えば健康的な生活習慣を持ち抵抗力が高い方は、副作用のリスクが小さくなります。逆に、肝臓や腎臓に基礎疾患を持つ方は、副作用が出やすい傾向です。

副作用は治療を続けるうちに出にくくなりますか?

山本 康博医師山本 康博(医師)

治療の継続に伴って副作用が出にくくなる例は少ないのではないでしょうか。むしろつらくなる方が多く見られます。抗がん剤治療は先の副作用が治まる頃に次の治療になる繰り返しなので、身体的にも精神的にもつらさが蓄積する傾向です。また、治療のたびに副作用からの回復期間が長くなったり、白血球が減少したりなどの例も見られます。

編集部まとめ

手術ができない肝臓がんに対して行う抗がん剤治療を解説してきました。肝臓がんに使われる抗がん剤は、主に分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の2種類です。

それぞれのタイプには特徴的な副作用が存在していて、食欲不振から命に関わる間質性肺炎までさまざまな症状が見られます。

副作用にはそれぞれの症状に適した対応策が用意され、中断や休止せずに治療が継続できるような体制が整えられているので、過度な心配はいりません。

肝臓がんと関連する病気

「肝臓がん」と関連する病気は5個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

これらの疾患は肝臓がんの患者さんによく見られ、肝臓がん発生への関与も疑われる疾患です。検診・検査などで肝機能の数値異常や肝炎ウィルスが指摘されたら、早急に医療機関を受診してください。

肝臓がんと関連する症状

「肝臓がん」と関連している、似ている症状は3個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

肝臓がんは進行すれば腹部のしこりや圧迫感・痛みなどの症状が出ますが、早期のうちはほとんど無症状です。ただ、関連が指摘される慢性の肝疾患では上記の症状があるので、こうした症状を目安として早めに受診しましょう。

この記事の監修医師

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