「梅毒の初期症状」をご存じですか? 発症に気づきにくい理由を医師が解説

「昔の病気」と思われがちな梅毒ですが、近年若い世代を中心に感染が拡大しています。痛みのないしこりや手のひらの発疹など、ニキビや湿疹と見間違えやすい初期症状も多く、気づかないうちに感染を広げてしまう場合も少なくありません。症状が消えても体内に潜伏することがあり、早期発見・治療がとても重要です。そこで今回は、梅毒の症状や意外な感染経路などについて、国際医療福祉大学救急医学講座教授の志賀隆先生に詳しく解説していただきました。

監修医師:
志賀 隆(国際医療福祉大学救急医学講座 教授)
再び増えている「梅毒」とはどんな病気?

編集部
はじめに、梅毒とはどのような病気か教えてください。
志賀先生
編集部
梅毒が危険と言われる理由について、詳しく教えてください。
志賀先生
治療せずに放置しておくと、知らないうちに心血管系や神経系の合併症に進展するのが問題です。年余を経て、梅毒の感染によって大動脈瘤ができて破裂すると、致命的になります。また、神経、眼、耳の梅毒は、実はどの時期であっても発症し得ます。進んでからでは後遺症が残る場合がありますが、早期のうちであれば抗菌薬で完治が見込めます。血液検査1つですぐに診断できる病気ですので、疑って検査を受けることが大事な一歩になります。
編集部
近年、梅毒の感染者が増加しているのはなぜですか?
志賀先生
感染増加の明確な原因は特定できませんが、若い世代の性行動の多様化、マッチングアプリなどをつかった不特定多数の人との出会いというのも原因として考えられます。また、避妊方法としてコンドームを使わない場合も増えている可能性があります。
編集部
どのような人が梅毒に感染しやすいのでしょうか?
志賀先生
梅毒は若年層、性風俗関係者やその利用者、複数の性的パートナーを持つ人、MSM(男性間性交渉者)などで感染リスクが高いとされています。中でもコンドームの不使用が最も大事な点です。
編集部
年齢や性別、性行動との関連性について教えてください。
志賀先生
複数のパートナーや性産業に従事する人があまり検査を受けていないということも要因として考えられます。このような方々は、症状に気づかず感染を広げるケースが多いため、予防と定期検査が重要です。女性の場合は妊娠中に胎児に感染して先天性梅毒となってしまうこともあります。
湿疹やニキビと間違えやすい? 初期症状に注意

編集部
初期の梅毒には、どのような症状が見られるのでしょうか?
志賀先生
梅毒の初期症状は軽度なことが多く、痛みを伴わないしこりや潰瘍が性器や口の中にできる「第1期梅毒」は見逃されやすいことが特徴です。数週間〜数カ月後には手のひらなどに発疹ができます。
編集部
ニキビやかぶれと間違えられやすいと聞きましたが、見分ける方法はありますか?
志賀先生
痛みを伴わないしこりや潰瘍(かいよう)が性器や口の中にできるのが特徴です。一見軽微な症状が出るため、湿疹やニキビと見間違いやすい病気ですが、手のひらに発疹ができる病気はかなり限られるのでポイントになります。
編集部
症状が出ない「無症候性」の梅毒もあるのですか?
志賀先生
感染してしばらくすると、症状がいったん消える「潜伏期」に入り、感染に気づかないまま他者にうつしてしまうリスクが生じます。自身の過去の性行動や感染リスクを振り返り、検査を受け、予防・早期発見をすることが重要です。
性交渉以外でも感染する場合もある? 知られざる感染経路

編集部
梅毒はどのように感染するのでしょうか?
志賀先生
梅毒は人から人にうつる病気で、菌は低酸素の状態でしか生きられません。そのため、うつる場面は限られています。多くの場合、感染している人(特に梅毒の初期や第2段階の人)との性行為やそれに似た接触によってうつります。梅毒の症状が出ている患部(しこりやただれなど)には、感染を広げないためにも、直接触れないようにしましょう。ごくまれに、手に傷がある人が菌のついたものに触れてうつることもあります。
編集部
キスなどでも感染する可能性がありますか?
志賀先生
はい、梅毒はキスによって粘膜同士が接触することで感染することがあります。ただし、症状がない時期(潜伏期など)や口の中に病変がない場合のキスでは、感染のリスクはかなり低いと考えられています。
編集部
タオルやトイレの共有でうつることはありますか?
志賀先生
可能性は低いですが、ごくまれに、手に傷がある状態で菌の付着した物に触れることで感染することもあります。過度に心配する必要はありませんが、基本的な衛生管理を徹底することも大切です。
編集部
再感染や他人への感染を防ぐために注意すべきことはありますか?
志賀先生
梅毒は、感染している人との性行為でうつることが多いので、そうした相手との性行為を避けることが大切です。また、パートナーの感染が判明した場合は、状況に応じてパートナーも同時に治療することを考慮するのが重要です。梅毒の傷や発疹がある部分に直接触れると感染するため、性行為のときにはコンドームを正しく使うことが予防につながります。ただし、コンドームでおおわれていない部分からうつることもあるので、100%防げるわけではありません。
編集部まとめ
かつては減少傾向にあった梅毒が、現代の多様化した性行動を背景に再び拡大しています。痛みがなく気づきにくい症状や、性行為以外での感染可能性など、知らないうちに感染を広げてしまうケースも少なくありません。梅毒についての適切な知識と定期的な検査、そして感染予防の意識が何よりも大切であることを学びました。本稿が読者の皆様にとって、梅毒をはじめとした性感染症について考えるきっかけとなり、ご自身や大切な人の健康を守る一助となりましたら幸いです。