【闘病】結婚式目前に発覚した「乳がん」 ステージ4、骨・肺・脳への多発転移

入浴前に鏡をみて、胸にしこりを見つけたという嘉藤さん。検査の結果は乳がんでした。その後、治療、再発を経てステージ4まで進行。骨・肺・脳への多発転移もみつかり、現在(取材時)も治療を続けています。そんな嘉藤さんに、これまでの治療や発覚の経緯、共に闘う乳がん患者さんへのメッセージなどを聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年12月取材。

体験者プロフィール:
嘉藤 美波
大阪府在住、1990年生まれ。家族は夫と犬。診断時の職業は会社員。翌月に結婚式を控えていた2022年11月に乳がんと告知される。2023年2月に左胸の全摘出(再建なし)を受け、病理結果はルミナールb、ホルモン弱陽性、HER2マイナス、ステージ3Aであった。3月に妊孕性温存治療で胚凍結をおこない、4月から7月まで抗がん剤治療を実施。その後、ホルモン治療や放射線治療をおこない、分子標的薬による再発予防をおこなうも、約一年後、骨・肺・脳への多発転移が同時に見つかる(ステージ4に進行)。生検ではトリプルネガティブへ変化していた。2回目の抗がん剤治療を開始。現在はパクリタキセル+アバスチンを組み合わせた抗がん剤で治療を続けている。
Instagram:katochami2820
翌月に結婚式を控えている中での乳がん告知

編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
嘉藤さん
私は人生で2度大きな病気を経験しました。1度目は20歳のとき、くも膜下出血を患いました。そして、2度目は今回の乳がんです。乳がんのしこりは、自分で発見しました。入浴前、何気なく鏡を見ていると、ビー玉くらいのしこりがポコッと浮かび上がっているのを見つけました。その瞬間、直感的に「これはまずい」と感じました。翌日は日曜日でしたが、休日でも診療しているクリニックを探して受診しました。検査を経て、乳がんであることを告げられました(ルミナールb、ホルモン弱陽性、HER2マイナス、ステージ3A)。
編集部
診断がついたときの心境について教えてください。
嘉藤さん
「ああ、やっぱりか」という想いと、「そうであってほしくない」という2つの感情が入り混じっていました。診断を受けた日は、主人と実母と私の3人で結果を聞きに行きました。不安はもちろんありましたが、当時は翌月に控えた大切な結婚式の準備が進んでいる最中でした。式の段取りやドレスも決まり、「あとは当日を迎えるだけ」という状況だったので、本当に結婚式を挙げられるのかという大きな不安がありました。
編集部
結婚式を挙げることはできたのですか?
嘉藤さん
はい。幸いにも主治医と相談をした結果、「まずは式を挙げてから治療に専念しましょう」と言ってもらいました。結婚式後、最初の通院の日には、主治医や看護師さんから祝福の言葉と「これから治療を頑張っていきましょうね」と励ましてもらえたことで、とても心強く感じました。
編集部
自覚症状などはあったのでしょうか?
嘉藤さん
しこりに気がつくまでは、自覚症状はまったくありませんでした。しかし、針生検を受けた後、検査した箇所の出血がなかなか止まらず、数日間は下着が血だらけになるほどでした。また、病巣部は少し物が触れるだけでも激痛を伴い、痛みに耐える日々を過ごしていました。このような状況の中で、胸を失うかもしれないという恐怖と、早くこの痛みから解放されたいという想いで、非常に複雑な感情が渦巻いていました。
さまざまな治療の選択肢から選んだ治療方法は

初発の抗がん剤時。脱毛が始まり、副作用もひどく出ていたころ
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
嘉藤さん
さまざまな治療の選択肢がある中で、主治医から伝えられたのは「手術先行」で全摘一択というものでした。同時再建の話もありましたが、初めて聞く内容ばかりで頭の中を整理することができませんでした。そのため、術前に人工乳房の工場を見学したり、あらゆる選択肢を調べたりしましたがなかなか決心がつかず、手術の日を先延ばしにしていました。
編集部
手術の決心がついたきっかけは何だったのでしょうか?
嘉藤さん
ある日の診察で、「ただ単に胸がなくなるのが怖いだけなんだな」と自分の中で気づき、「再建は落ち着いてから考えればいい」と思うようになり、胸を取る決心がつきました。今のところ、再建する予定はありません。術後の結果ではリンパ節への転移が多かったため、主治医から「抗がん剤治療をおこなったほうがよい」との説明がありました。そこで、事前に妊孕性温存の治療を受け、術後は標準治療をすべておこなうという方針で進めていくこととなりました。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
嘉藤さん
当時勤めていた会社には、手術さえ終わればすぐに復職できるものだと考えていました。しかし、その後、抗がん剤治療をおこなうことが決まり、休職を延長せざるを得ませんでした。抗がん剤治療が始まると、自分のメンタルを保つことだけで精一杯の毎日でした。さらに、副作用が日によって異なるため、寝たきりのような日々が多くあったことを覚えています。本当に大変な日々でしたが、少しずつ乗り越えてきたと思います。
編集部
乳がんに向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
嘉藤さん
治療中でも体調がよいときは、夫婦共通の趣味であるキャンプに出かけることが多かったです。いったん私生活を離れて、自然の中で何もしない時間を過ごすことが、私にとって唯一のデトックスタイムでした。また、昨年の5月には、以前から迎えたいと願っていた犬を家族に迎え入れました。新しい家族が日々癒しを与えてくれる存在になり、とても幸せな時間を過ごしています。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
嘉藤さん
う~ん。特にありません(笑)。今までの人生も自分が選択してきた人生ですし、生きてきた人生に後悔はないかな。強いて言うなら、「手厚いがん保険に入っておいた方がいいよ」ということくらいでしょうか……(笑)。
がんであっても、がんではなくても、自分の人生を思い切り楽しんでほしい

抗がん剤治療を終え髪の毛が生え始め、夫婦の共通の趣味でもある野球観戦へ
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
嘉藤さん
昨年、再発、骨・肺・脳への多発転移が判明しました(ステージ4)。幸い、脳転移はガンマナイフで治療できました。現在はパクリタキセルとアバスチンを組み合わせた抗がん剤治療を毎週受けています。現時点で3クール(計9回)の投与が終わりました。若干の末端神経障害や咳、喉の粘膜炎症といった副作用はありますが、日常生活を送ることはできています。感染症に注意しながら、今の自分にできる範囲のことを心がけ、治療に専念しています。抗がん剤治療には終わりが見えない状況ですが、治療が続けられるように体力をつけることや、基本的なことですが規則正しい生活を意識して過ごしています。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
嘉藤さん
今通院している病院の主治医や看護師さん、事務員さんには本当に感謝しています。病院ではどうしても病気の話が中心になりがちですが、主治医とはプライベートな話や病気以外の話もでき、遠慮なく聞きたいことを聞ける環境がとてもありがたいと感じています。日々多くの患者さんと接する中で、1人に時間を割くことは現実的に難しいかもしれません。それでも、短い時間でも体と体で向き合い、話を聞いてくれるだけで「治療を頑張ろう」と思える患者さんもいるのではないかと思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
嘉藤さん
私やこの記事を読んでくださっているあなたが、がんになったことは誰のせいでもありません。そして、無理をして頑張っている人は、頑張る必要もないのです。長く続く治療の先には、きっと明るい未来が待っていると信じています。どんな状況であっても、通院や検査の日には不安や心配がつきまとうもの。がんと告知された日から、多かれ少なかれ孤独感を抱えた経験があるはずです。治療中は感情がジェットコースターのように揺れ動き、それでも治療を続けなければならない日々が続きます。だからこそ、もっと自分に優しくなって、時には自分を甘やかしてもいいと思います。立ち止まることも大切な時間です。私自身も治療中の今でも日々学び続けています。
編集部
嘉藤さんの言葉に勇気づけられる人もたくさんいると思います。
嘉藤さん
がんであっても、がんではなくても、自分の人生を思い切り楽しんでほしいですね。治療中は副作用の影響や思うように体が動かないことも多く、気持ちがマイナスに傾いてしまいがちですが、がんが人生の中心にならないようにすることが大事です。むしろ、それをできるだけ枠の外に置いて、自分がワクワクすることや、少し先の楽しみ、目標を見つけて、がんの優先順位を下げるように心がけながら、一緒に治療を乗り越えていきましょう。もし元気がなくなったら、ぜひ私のインスタグラムを覗いてみてください(プロフィール参照)。笑顔とパワーをお届けしています。あなたも私も、最高で最強です。きっと大丈夫。ツイテルツイテル。
編集部まとめ
嘉藤さんは、病気との闘いを通じて感じた葛藤や不安、治療中の困難を率直に語りつつも、前向きなメッセージを伝えています。がんという状況の中でも、自分らしく生きることや、自然や家族との時間、そして小さな楽しみを見つけることの大切さを強調されています。彼女の「がんを人生の中心にしない」という言葉は、多くの患者さんにとってなんらかの気づきになるのではないでしょうか。

記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。