鼠径ヘルニア(脱腸)の治し方を医師が解説 「腹腔鏡手術」「鼠径部切開法」の違いとは?

鼠径ヘルニア(脱腸)は、根治治療のためには手術が一般的で、手術方法には「腹腔鏡手術」と「鼠径部切開法」の二つがあるのだそうです。 そこで神戸日帰り外科そけいヘルニアかずクリニックの藤木和也先生に、それぞれの手術のメリット・デメリットについて解説してもらいました。

監修医師:
藤木 和也(神戸日帰り外科そけいヘルニアかずクリニック)
鼠径ヘルニアって? 原因は?

編集部
鼠径ヘルニアとはどのような病気ですか?
藤木先生
鼠径ヘルニアは、腹部の臓器が鼠径部の筋肉の隙間から脱出した状態を指します。一般的には「脱腸」とも呼ばれ、成人男性に多く見られる疾患ですが、一部女性に多い「大腿ヘルニア」という疾患もあります。
編集部
なぜそういった状態になるのですか?
藤木先生
加齢や筋力の低下、重いものを持ち上げるなどの腹圧の上昇が主な原因とされています。これらの要因が鼠径部の組織の脆弱化を引き起こし、ヘルニアの発生につながるのです。ほかにも慢性的な咳、便秘・排尿障害など、頻回に腹圧がかかる状況も鼠径ヘルニアのリスクを高めると言われています。
編集部
鼠径ヘルニアの症状について教えてください。
藤木先生
鼠径部に柔らかい膨らみが現れ、立ち上がったり、咳をしたりすると大きくなる傾向があります。初期段階では痛みを伴わないことが多いのですが、進行すると不快感や痛みを覚えることが多いです。放置しているうちに突然、膨らみが戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」状態となり緊急手術が必要となる場合もあります。
鼠径ヘルニアの治療法を医師が解説

編集部
鼠径ヘルニアの治療法にはどのようなものがありますか?
藤木先生
手術が唯一の根本治療です。主な手術方法として「腹腔鏡手術」と「鼠径部切開法」があり、どちらも日帰り手術が可能ですが、それぞれに特徴があります。
編集部
それぞれについて教えてください。まずは腹腔鏡手術から。
藤木先生
腹腔鏡手術は、小さく切開してカメラと手術器具を挿入し、ヘルニアを修復する方法です。一般的におへそや腹部の数か所に1~2cmの小さな切開をおこない、カメラ映像を見ながら手術を進めます。
編集部
腹腔鏡手術のメリットとは何ですか?
藤木先生
多くの医療機関では、おへその切開と、2か所の小切開で済むため、傷口が小さく、術後の痛みが軽減される傾向があります。さらに、当院のように1か所の切開のみの「単孔式手術」を取り入れている医療機関もあります。また、両側のヘルニアを1回の手術で同時に修復できる利点もあります。
編集部
では、デメリットや注意点は?
藤木先生
全身麻酔が必要であり、手術時間がやや長くなる傾向があります。また、過去に腹部手術歴がある場合や、全身麻酔が難しい方には適さない場合があります。
鼠径ヘルニアの鼠径部切開法のメリット・デメリットは?

編集部
鼠径部切開法とはどのような方法ですか?
藤木先生
鼠径部切開法は腹腔鏡を使用せずにおこなう鼠径ヘルニアの手術で、局所麻酔でおこなうことが可能です。一般的には、鼠径部の皮膚のしわに沿って約5cmの切開を加え、ヘルニアの原因となる筋肉の隙間(ヘルニア門)を修復します。修復方法には、網目状の人工シート(メッシュ)を使用する「メッシュ法」と、自身の組織を縫合して補強する「組織縫合法」の二種類があります。
編集部
鼠径部切開法のメリット・デメリットは何ですか?
藤木先生
局所麻酔で手術が可能なため、全身麻酔が難しい患者さんにも適応できます。また、手術時間が比較的短く、出血リスクが高い方でも対応しやすいとされています。一方で、切開部が大きくなるため、術後の痛みが強く出ることがあったり、痛みを感じやすい神経が手術部位に存在するため、まれに術後に神経痛が発生したりするリスクが腹腔鏡よりも高いと言われています。
編集部
手術方法の選択はどのようにおこなわれますか?
藤木先生
患者さんの全身状態や過去の手術歴、ヘルニアの状態などを総合的に評価し、ご自身の希望やニーズも聞きながら、最適な手術方法を選択します。専門医と十分に相談し、納得のいく治療法を選ぶことが重要です。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージをお願いします。
藤木先生
鼠径ヘルニアの手術方法は大きく分けて「腹腔鏡手術」と「鼠径部切開法」の2種類がありますが、すべての病院で両方の術式に対応しているわけではありません。決まった術式のみという医療機関もありますので、例えば「傷は小さくて少ない方がよい」といった希望のある方は、当院のように単孔式の腹腔鏡手術をしている医療機関に相談するなど、希望する術式をおこなっているのか病院に確認することが大切です。また、どちらがよいのかわからない人は、どちらの術式にも対応している医療機関に相談してみましょう。いずれの場合も、医師の説明をよく聞き、ご自身が納得した上で治療を選択することをお勧めします。
編集部まとめ
鼠径ヘルニアは放置すると悪化する可能性があり、早めの治療が重要です。症状や種類を正しく理解し、適切な治療を選択することが大切です。気になる症状がある方は、早めに専門の医療機関を受診し、自分に合った治療法を検討してみてください。
医院情報
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診療科目 | 外科(そけいヘルニア) |