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「副甲状腺」の異常により尿路結石や骨粗しょう症をきたす疾患があるのをご存じですか?

 更新日:2025/05/15

若年性の骨粗しょう症や尿路結石を繰り返すなどの場合は、もしかしたら原発性副甲状腺機能亢進症かもしれません。聞き慣れない病名かもしれませんが、放置すると様々な合併症を引き起こすことも。そこで原発性副甲状腺機能亢進症について、ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島の中口先生にメディカルドック編集部が詳しく話を聞きました。

中口 裕達

監修医師
中口 裕達(ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島)

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聖マリアンナ医科大学医学部卒業。横浜市立大学附属病院 基本臨床研修プログラム修了。横浜市立大学大学院医学研究科 医科学専攻修了、医学博士号取得。国家公務員共済組合連合会 横浜栄共済病院 代謝内分泌内科、横浜市立大学附属病院 内分泌・糖尿病内科 助教、国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院 内分泌代謝内科 医長などを経て現職。医学博士、日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医。

原発性副甲状腺機能亢進症とは?

原発性副甲状腺機能亢進症とは?

編集部編集部

副甲状腺とはなんですか?

中口 裕達先生中口先生

副甲状腺とは、甲状腺の後方に位置する小さな内分泌腺です。通常左右に2つずつ、合計4つ存在し、直径5mmほどの米粒大の大きさです。主な役割は、副甲状腺ホルモン(以下、PTH)を分泌することです。

編集部編集部

副甲状腺ホルモンはどのような働きをしているのですか?

中口 裕達先生中口先生

簡単にいえば血液中のカルシウム濃度を調整し、骨、腎臓、腸管に作用することで、体内のカルシウムバランスを維持する重要な働きを担っています。

編集部編集部

もう少し詳しく教えてください。

中口 裕達先生中口先生

PTHは、血液中のカルシウム濃度が低下すると分泌が促進され、逆にカルシウム濃度が高くなると分泌が抑えられる仕組みになっています。PTHは、主に3つの器官に働きかけます。まず、骨に作用して骨の中のカルシウムを血液中に放出させます。次に、腎臓でのカルシウムの再吸収を促進し、尿中に排出されるカルシウムの量を減らします。さらに、小腸ではPTHがビタミンDを活性化することによって、食事からのカルシウム吸収量を増やします。これらの作用によって、血中カルシウム濃度が正常範囲に維持されるのです。

編集部編集部

原発性副甲状腺機能亢進症とは、この副甲状腺に異常が起きる病気なのですか?

中口 裕達先生中口先生

はい。原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺からホルモンが過剰に分泌される病気です。その結果、血液中のカルシウム濃度が高くなり、骨や腎臓に影響を与えます。骨がもろくなったり、腎結石を繰り返すような症状が出たりした場合に診断されることが多いです。近年では健康診断で高カルシウム血症を指摘されたり、骨粗しょう症の検査を通じて、無症状の段階で偶然発見されたりするケースが増えています。また、遺伝的要因が関与することもあり、若年での発症は多発性内分泌腫瘍症(MEN)などの遺伝疾患の一部として起こることもあります。

原発性副甲状腺機能亢進症の原因と症状とは?

原発性副甲状腺機能亢進症の原因と症状とは?

編集部編集部

原因はなんですか?

中口 裕達先生中口先生

原発性副甲状腺機能亢進症の主な原因は、副甲状腺にできる「良性の腺腫」です。8割以上の症例では、4つある副甲状腺のうち1つに腺腫ができることで副甲状腺ホルモンの分泌が過剰になり、高カルシウム血症を引き起こします。次に多い原因は、副甲状腺のすべてが大きくなる「副甲状腺過形成」で、これは特に遺伝性の疾患として発症することがあります。極めてまれですが、副甲状腺のがんが原因で副甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるケースもあります。この場合は、通常の腺腫よりもさらに高いカルシウム値を示し、病状が進行しやすい傾向があります。

編集部編集部

どのような症状が見られますか?

中口 裕達先生中口先生

軽症のうちは自覚症状がほとんどないことが多いですが、病気が進行するとさまざまな臓器に影響を及ぼします。骨に関しては骨密度が低下し、骨粗しょう症を引き起こしやすくなります。特に、脊椎や大腿骨といった部位の骨折リスクが高くなるため、注意が必要です。

編集部編集部

そのほかの臓器ではどうでしょうか?

中口 裕達先生中口先生

腎臓に関しては、血中のカルシウムが過剰になることで腎結石が発生しやすくなります。結石が大きくなると、激しい腰痛や血尿を伴うことがあり、繰り返すことで腎機能が低下することもあります。また、高カルシウム血症により、口の渇きや多尿といった症状が現れることもあります。消化器症状としては、食欲不振や便秘、胃潰瘍のリスクが高まることも知られています。

編集部編集部

さまざまな症状が見られるのですね。

中口 裕達先生中口先生

はい。極めて高いカルシウム値となると、意識障害や錯乱状態を引き起こすこともあり、早急な対応が必要になります。このように、原発性副甲状腺機能亢進症は、全身にさまざまな症状を引き起こす病気です。

編集部編集部

診断にはどのような検査が必要ですか?

中口 裕達先生中口先生

まず血液検査をおこない、血清カルシウム濃度が基準値を超えているかどうかを確認します。通常、血中カルシウムが高い場合にはPTHの分泌が抑制されるはずです。しかし、原発性副甲状腺機能亢進症では、カルシウムが高値であるにもかかわらずPTHが正常または高値を示すのが特徴です。また尿検査も重要で、特に家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症という遺伝性疾患との鑑別のために、尿中のカルシウム排泄量を測定します。

編集部編集部

そのほか、必要な検査はありますか?

中口 裕達先生中口先生

画像検査としては、頸部超音波検査や、99mTc-MIBIシンチグラムを用いた核医学検査、CTやMRIによる評価がおこなわれ、異常をきたしている副甲状腺の部位を特定します。さらに、骨密度測定をおこない、骨粗しょう症の有無を確認し、腎臓結石の有無を調べるために腹部超音波検査をおこなうこともあります。

副甲状腺機能亢進症が疑われるときにはどうしたらよいか?

副甲状腺機能亢進症が疑われるときにはどうしたらよいか?

編集部編集部

治療について教えてください。どのような場合に手術が考慮されますか?

中口 裕達先生中口先生

手術(副甲状腺摘出術)は根治療法として推奨されますが、すべての患者さんが手術を受けるわけではありません。特に、血清カルシウムが基準値を大きく越える場合(手術適応の目安は基準値上限+1.0mg/dL)は、手術が推奨されます。また、骨密度低下がある場合(骨粗しょう症の診断基準であるTスコアが-2.5以下)、骨折リスクを軽減する目的で手術が考慮されます。さらに、腎機能低下や尿路結石を繰り返す場合にも、腎障害を予防するために手術が推奨されます。50歳未満の患者さんでは、たとえ症状がなくても長期的な合併症リスクを考慮し、手術が勧められます。

編集部編集部

手術以外の治療法(経過観察や薬物療法)についても教えてください。

中口 裕達先生中口先生

軽症の場合には定期的な経過観察が選択されることもあります。経過観察をおこなう際には、血清カルシウムや骨密度、腎機能の変化を定期的に評価し、病状が進行していないかを確認します。薬物療法としては、骨密度低下を防ぐためにビスホスホネート製剤が使用されることがあります。

編集部編集部

薬物療法がおこなわれることもあるのですね。

中口 裕達先生中口先生

はい。そのほか、カルシウム受容体作動薬であるシナカルセトは、副甲状腺ホルモンの分泌を抑え、血清カルシウム値を低下させる効果があります。特に、ご高齢で手術が困難な患者さんや、重篤な合併症がある患者さんなどでは、この薬物療法が有用です。さらに、エボカルセトもカルシウム受容体作動薬の一つであり、日本では副甲状腺摘出術が不能、または術後再発した原発性副甲状腺機能亢進症の治療に使用可能とされています。これらは根本的な治療ではなく、あくまで対症療法であるため、長期的な管理が必要になります。

編集部編集部

この病気を放置すると、どのような合併症が起こる可能性がありますか?

中口 裕達先生中口先生

原発性副甲状腺機能亢進症を放置すると骨粗しょう症が進行し、骨折のリスクが著しく高まります。また、高カルシウム血症が持続することで、腎結石が繰り返し発生し、腎機能が低下することがあります。過剰な副甲状腺ホルモンはさまざまな場所へカルシウムを沈着させるため、動脈硬化が進行しやすくなることが報告されております。また、精神神経症状として、抑うつや認知機能の低下がみられることもあり、生活の質(QOL)を損なう要因となります。

編集部編集部

生活習慣や食事で気をつけることはありますか?

中口 裕達先生中口先生

高カルシウム血症を悪化させないためには、水分をしっかり摂取し、脱水を防ぐことが重要です。脱水状態になると、血中カルシウム濃度がさらに上昇し、腎結石のリスクも高まるため、適切な水分摂取を心がけることが必要です。また、カルシウムの摂取については極端な制限を避け、適量を維持することが大切です。特に、過度なビタミンD摂取はカルシウム吸収を促進するため、医師の指導のもと適切な量を摂取することが推奨されます。さらに、適度な運動をおこなうことで骨密度を維持し、骨折リスクを低減させることが期待されます。

編集部編集部

最後にメディカルドック読者へのメッセージがあれば。

中口 裕達先生中口先生

比較的珍しい疾患ですので、原発性副甲状腺機能亢進症と診断されるまで時間がかかってしまう場合も少なくありません。しかし、この病気はしっかり精査をして診断をつければ、治療が可能な病気です。最近では人間ドックなどで骨粗しょう症や高カルシウム血症を指摘され、それがきっかけとなって診断される症例も増えています。特に、尿路結石を繰り返す場合や高カルシウム血症の指摘をうけたことのある人は、内分泌専門医の受診をお勧めします。

編集部まとめ

なかなか聞き慣れない病気ですが、発症すると全身にさまざまな症状を引き起こす原発性副甲状腺機能亢進症。「もしかして」と思う場合は、一度内分泌の専門医を受診してみましょう。

医院情報

ハートメディカルクリニックGeN 横浜綱島

ハートメディカルクリニックGeN 横浜綱島
所在地 〒223-0052 横浜市港北区綱島東4-3-17 アピタテラス横浜綱島2F
アクセス 東急東横線「綱島」駅より徒歩約10分
東急新横浜線「新綱島」駅より徒歩約10分
診療科目 内科、循環器内科、糖尿病内科、内分泌内科

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