知っておきたいインプラント周囲炎を放置するリスクと予防法【歯科医解説】

インプラント治療は、失われた歯を取り戻すための有効な手段ですが、治療後のケアを怠ると「インプラント周囲炎」を引き起こすおそれがあります。インプラント周囲炎が進行すると最悪の場合、インプラントが抜け落ちてしまう可能性もあるため細心の注意が必要です。そこで、インプラント周囲炎の原因や症状、治療法、予防法について、本荘歯科クリニックの本荘先生に解説してもらいました。

監修歯科医師:
本荘 真也(本荘歯科クリニック)
目次 -INDEX-
「インプラント周囲炎」ってどんな病気? 歯周病との違いやリスク要因を徹底解説

編集部
インプラント周囲炎とは、具体的にどのような病気なのでしょうか?
本荘先生
「インプラント周囲炎」と聞くとイメージが湧きづらいと思いますが、いわゆる歯周病や歯槽膿漏(歯周病が進行した状態)と同じような症状が、インプラントの周囲に起こる病気です。簡単に言うと、天然歯に起こる歯周病のインプラント版で、インプラント周囲の歯ぐきに炎症が起こり、進行するとインプラントを支える骨を溶かしていきます。
編集部
「歯周病のインプラント版」ということですが、実際に天然歯に生じる歯周病と何か違いはあるのでしょうか?
本荘先生
大きな違いとしては、通常の歯周病と比べて治療が極めて困難な点です。進行すると対処が非常に難しくなるため、インプラント周囲炎は歯周病以上に予防が重要な病気といえます。
編集部
なぜ、通常の歯周病よりも治療が難しいのでしょうか?
本荘先生

編集部
インプラント周囲炎の主な原因は何でしょうか?
本荘先生
直接的な原因は細菌感染ですが、これにくわえて治療条件が大きく関係しています。例えば、インプラントを埋め込む部位に丈夫な歯ぐきや十分な骨がない状態で治療をおこなうと、インプラント周囲炎になる可能性が高くなります。逆にしっかりとした骨や丈夫な歯ぐきがある場合は、リスクは低くなります。
編集部
そのほかに、インプラント周囲炎の引き起こす要因はありますか?
本荘先生
治療後のメンテナンスや全身的な病気も大きな要因です。メンテナンスについては患者さんのセルフケアがしっかりできているかという点と、歯科医院で定期的なメンテナンスを受けているかが大きく関係してきます。全身的な病気に関しては、糖尿病や骨粗しょう症、がん治療で免疫抑制剤を服用している場合なども、インプラント周囲炎のリスクを高める要因になります。
インプラント周囲炎の初期症状と治療、放置するリスク

編集部
インプラント周囲炎の初期症状にどのようなものがありますか? 患者さん自身で気づけるポイントを教えてください。
本荘先生
インプラント周囲炎の初期症状に、インプラント周囲からの出血や腫れが挙げられます。とくに、歯磨きの際にインプラント周辺から出血がみられる場合は、早めに受診することをおすすめします。
編集部
インプラント周囲炎を放置すると、どのようなリスクがありますか?
本荘先生
インプラント周囲炎を放置してしまうと、インプラントの周りにある骨が溶けてしまい、歯ぐきもどんどん下がっていきます。その結果、インプラントがグラグラしたり、痛みが出たりして、最悪の場合インプラントを撤去しなければならなくなる可能性が高くなります。
編集部
インプラント周囲炎でインプラントが撤去になった場合、再度インプラントを入れることは可能なのでしょうか?
本荘先生
再度インプラントを入れられるかどうかは、その時点での骨の状態によって大きく異なります。インプラントを撤去した場所にまだ十分な骨が残っている場合は、再度インプラント治療をおこなうことが可能です。しかし、インプラント周囲炎によって骨が大きく溶けてしまい、十分な骨や歯ぐきが残っていない場合は、再度のインプラント治療が困難になることもあります。
編集部
インプラント周囲炎と診断された場合、どのような治療を行うのでしょうか?
本荘先生
初期段階であれば治療による改善が可能です。多くの場合、セルフケアや定期メンテナンスの不備によってインプラント周囲に汚れがたまった状態になっているため、まずはこれらの問題の改善からはじめていきます。しかし、インプラント周囲炎が進行してしまうと、それだけでは改善が難しくなります。その場合は、インプラント周囲の歯ぐきの手術を行い、感染物質や歯石を除去したり、溶けてしまった骨を再生させる治療を行なったりします。
編集部
インプラント周囲炎治療の費用と治療期間の目安を教えてください。
本荘先生
費用と治療期間は、インプラント周囲炎の進行度合いによって大きく異なります。軽度の場合は費用が1万円前後、治療期間は数カ月程度です。しかし、症状が進行して手術が必要になった場合は費用に数万円かかり、治療期間も半年から1年程度必要になります。なお、歯科医院によってはインプラント治療の保証制度を設けているところもあるため、その場合は費用の一部負担のみで治療できる場合もあります。
インプラント周囲炎は予防が肝心! 正しいケアで長持ちさせるコツとは?

編集部
インプラント周囲炎を予防するために、日頃からどのようなことに注意すればよいでしょうか?
本荘先生
インプラント周囲炎の予防は、基本的に歯周病の予防と考え方は同じです。まず重要なのは、ご自身でしっかりとした口腔ケアをおこなうことです。とくに、インプラントはその形態上、天然歯よりも汚れが溜まりやすい傾向があります。また、病気への抵抗力も弱いため、天然歯よりもさらに丁寧なケアが必要になります。くわえて、禁煙や糖尿病などの生活習慣病の予防・改善も、インプラント周囲炎の予防では重要です。
編集部
インプラントと天然歯では、ブラッシングの方法にも違いはあるのでしょうか?
本荘先生
ブラッシングの基本的な方法に大きな違いはありませんが、天然歯に比べてインプラントは根元の部分が細くくびれているため、その部分に汚れが溜まりやすくなっています。そのため、デンタルフロスや歯間ブラシ、タフトブラシといった専用器具を使用して、くびれた部分をしっかり清掃することが大切です。
編集部
歯科医院の定期メンテナンスは、どのぐらいの頻度で受けるべきでしょうか?
本荘先生
最低でも「3カ月に1回」の頻度でメンテナンスを受けることをおすすめしています。ただし、リスクが高い方はより頻繁なメンテナンスが必要です。「喫煙している方」「もともと歯周病の問題がある方」「糖尿病がある方」「高齢で細かい部分まで歯磨きが難しい方」などは、1~2カ月に1回のメンテナンスを推奨しています。
編集部
そのほかに、インプラント周囲炎のリスクを低減させるために気をつけることはありますか?
本荘先生
インプラント周囲炎は歯周病とほぼ同じような病気ですので、インプラント治療を受ける前にしっかり歯周病の治療を行っておくことが非常に重要です。たとえ時間がかかっても、あらかじめ歯周病をしっかりと治療をしてからインプラント治療をおこなうことをおすすめします。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
本荘先生
インプラント周囲炎は一度かかってしまうと、治療が非常に難しい病気です。進行してしまうと、せっかく入れたインプラントを撤去しなければならないこともあります。そのため、インプラント周囲炎になってから対処するのではなく、そうなる前にしっかり予防していくという考え方がとても重要です。日頃から適切なセルフケアと、定期的な歯科医院のメンテナンスを心がけることで、インプラントを長く使い続けることができます。ぜひ本記事を参考に、予防を重視した管理を心がけていただきたいと思います。
編集部まとめ
インプラント周囲炎は「インプラントの歯周病」と呼ばれていますが、天然歯の歯周病に比べて進行が速く、治療が難しいという特徴があります。進行すると最悪の場合、インプラントの撤去が必要になることもあるため、徹底した予防に努めることが大切です。治療後は毎日のセルフケアはもちろんのこと、定期的な歯科医院でのメンテナンスを継続してインプラントを長く良好な状態に保っていきましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科、小児歯科 |